下請け製造業の販路開拓は「回転ずし」です。
世の中に「営業力UP」の本やコンサルティングは山のようにありますが、下請け製造業にとって、
営業力が一番に必要な能力でしょうか。
「
下請け力とは営業力ではなく、宿題解決力」
下請け受注型の製造業で23年間働いてきた当コンサルタントが考える
下請け製造業に必要な力は、
実は
宿題解決力だと考えています。
宿題とは、新規の引き合いの際にもらう図面のことです。
例えば、新しい取引先を知り合いづてに紹介してもらい、試しに図面をもらうケースがよくあります。
さまざまな取引チャネルが存在する現在、これまで事業をされてきた経営者様でしたら、何らか新しい
引き合いの話をキャッチされるネットワークはお持ちだと思います。
では、その図面のお仕事、何でも受注できるでしょうか。そう、「回転寿司」のように目の前を通って
いくお仕事、簡単にそのお皿に手を伸ばせるでしょうか。
Photo by (c)Tomo.Yun
「
いざ取ってみたらビックリ」
実際には難しいと思います。なぜでしょうか。
そのお皿のお仕事を受注できるかどうかは、社内で
どこまで対応できるかどうかによるからですよね。
これが私の考える
下請け力の強さです。
例えば、私が経験してきた「お皿」は、次のような仕事でした。
その①:
お皿を取って見たら、「全てがはじめてやること」
同業者からの仕事で、大手自動車Tier1メーカーで使用するダイカスト金型部品の切削加工でした。
私が当時勤めていたある会社では、近隣の会社からの横請け仕事がメインで、5軸マシニングがあり
ましたが、その「お皿」を取るまでは、5軸マシニングや複合旋盤は汎用加工・穴あけマシンでした。
ダイス鋼を切削するその部品は、素材の体積が大きく、もしオシャカをしていまうとウン万円という
材料を自社で買いなおすリスクもありました。
しかも初めての4軸加工など、その会社では初めてやることのオンパレード。加工は各部門のエース
を集めて対応しました。
その②:
お皿を取って見たら、「はじめての航空機部品」
今度は、商社経由で関西の大手企業からの引き合いでした。いわゆる航空機部品の切削加工です。
私と営業担当で見積もりを持って訪問したところ、複合旋盤を使った4軸加工は客先では実績がない
とのことで、即受注になりました。
3軸の門型マシニングでは不可能な作業時間を提示しましたので、とても興味を持たれたようです。
しかし、やはり取った「お皿」にはとても苦労が伴うものでした。絶対にオシャカできない材料、
逐次報告、過去に切削経験が無い粘っこい素材など。
この仕事も各部門のエースを集めて対応しました。
その③:
お皿を取って見たら、「紙図面無しでの鋳物加工」
今では当たり前になっていますが、下請け企業に紙図面の支給がなく、IGESなど3次元CADの
中間ファイルと公差指示などの加工仕様書のみが支給される仕事があります。
この仕事も、はじめて受注した時は大変でした。もちろん「期限有り」です。
この手の仕事は、検査用の図面を自社で起こすところに手間がかかります。検収をもらう際の測定
値が入った図面を、作図の段階から自社でつくります。
角材とは違う最終形態に近い状態になっている鋳物を、はじめて加工する時も大変です。取りしろ
のバランス、そもそも一体どこをクランプして削るのかなど、製造部門が集まって検討しました。
「
内部環境で「お皿」が取れるか取れないかが決まる」
このような事例のように、会社にとって未知の「お皿」に手を出すのはとても勇気がいります。
その背中を押してくれるのは何でしょうか。
その「お皿」のお寿司をきちんと食べてくれる
内部環境が自社にあるかどうかだと思います。
上記の鋳物加工ですが、私は2社で
初受注を経験しました。結果は次のような違いがでました。
|
受注の結果 |
A社 |
初受注で加工成功。継続取引につながる。他の自動車部品の受注にも図面レスの
ノウハウを活かすことができるようになった。 |
B社 |
初受注で加工が失敗。私の知り合いの会社に協力を要請。継続取引に至らず。
その後は機械加工部門が縮小。 |
「
なにに焦点を当てるべきか」
このような結果の違いは、なぜ起こるのでしょうか。
私は、2社の風土の違いを考えてみました。
|
設備の面 |
従業員の面 |
A社 |
競争力・効率性を重視して
工作機械を選定している。 |
最新設備を触りたい者が
入社している。 |
B社 |
機械商社に薦められる
工作機械を導入している。 |
仕事が好きではない者が
紹介で入社してきている。 |
こうしてみると、そもそも
A社には
チャレンジできる体制が整っていることがわかります。
特に「
マインド」の部分です。
受注した当時の2社の空気感を振り返ると、次のような違いがありました。
|
当時の空気感 |
A社 |
会社全体で新しい仕事にチャレンジしたい想いがある。手を挙げてプロジェ
クトチームに参加したい者がいる。現場の全員が単純仕事から脱却したいと
思っていた。 |
B社 |
製造部門のメンバーはなるべく自分は参加したくないという雰囲気だった。
個人個人がなるべくリスクを避けたいと思っていた。 |
A社と比較すると、B社は
変化を受け入れたくないような風土だとわかります。
「
短期と長期に分けてかんがえましょう」
このように回ってくる「お皿」を取れるか取れないか、取った「お皿」が成功するかしないか、
これは
社内の受け入れ態勢しだいだと思うのです。
回転寿司のように業界に仕事という「お皿」は回っており、営業力によって「お皿」をキャッチ
しても、いざ対応できるかどうかは、社内環境しだいです。
では、その社内の受け入れ態勢はどうやって熟成されるのか。
これは、次のように
長期・短期に分けて考えるべきではないでしょうか。
長期 |
良い人材を採用して育成していく。中小企業でも採用活動ができる
準備をする。 |
短期 |
既存の設備・人材を活かして、宿題に対応できる体制を作る。
不足するのであれば補助金など公的支援策を活用する。 |
この2つの視点から「お皿」の社内受け入れ態勢を強化する、つまり
下請け力を強化することを
オススメしています。
この計画を
下請け力UPプロジェクトとして、およそ
2年間を目途に社内改革に取り入れる
取り組みをされてはいかがでしょうか。どうぞご検討ください。